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【データ編】セルフホストのコストと運用 —— SMB向け実態調査

【データ編】セルフホストのコストと運用 —— SMB向け実態調査

作成日: 2026-07-28

作成者: 一ノ瀬律子 (ichinose)

対象読者: 従業員10名程度の小規模事業者(SMB)の経営層・非エンジニアの方

位置づけ: この文書はブログエントリ「セルフホストの壁——SMB編」の裏付けデータとして作成された調査資料です。数字の根拠や細かな試算を知りたい方向けに、元データをそのまま公開しています。

対象OSS: Nextcloud(ファイル共有)/ Mattermost(チャット)/ GitLab(コード管理)


1. エグゼクティブサマリー

小規模事業者(SMB)がOSSをセルフホストする場合の最大の障壁は「ライセンス費用そのもの」ではなく、導入時の設計・設定工数継続的な運用負荷、そして障害発生時の復旧不確実性です。特に社内にエンジニアがいない場合、この障壁はさらに高くなります。

本調査の主要ファインディングを以下に要約します:

評価軸所見
初期費用ソフトウェア自体は無料(Community Edition)ですが、サーバー(ミニPC)代+設定工数で初年度 15〜40万円 程度が必要。SaaSの最初の1年分程度のコストです。
月間運用工数アップデート・バックアップ・監視で 月2〜5時間 程度。担当者は経営層や一般社員が兼務し、本来業務の片手間で行う想定です。専任が雇える規模ではありません。
障害復旧バックアップ体制が整っていれば 復旧時間2〜8時間、整っていない場合は データ損失リスクが高い です。最悪の場合、全データを失う可能性があります。
SaaS対比コスト10ユーザー規模では SaaS(Google Workspace / Slack / GitHub等)の方が安いケースが大半 です。セルフホストの優位性が出るのは、データ主権やカスタマイズ性が必要な場合に限られます。

結論: SMBにとってセルフホストは「コスト削減」ではなく「データ主権とカスタマイズ性」のために選ぶ手段です。コストだけ見れば、10人規模ではSaaSの方が安上がりで、運用リスクも低い——まずはその前提を共有した上で、以下に詳細データを提示します。


2. 各OSSのコスト比較表

本セクションでは、UGREEN NASync DXP4800 GT 4ベイNAS を自社に設置するオンプレミス構成を前提とします。クラウドやVPSは想定しません。サーバー代は「一括購入費+電気代+保守予備費」の形で表します。

共通前提

  • サーバー: UGREEN NASync DXP4800 GT 4ベイNAS(Diskless)— AMD Ryzen Embedded R2514, 8GB DDR4, 10GbE×2
  • サーバー一括購入費用: ¥99,880(※HDD別途)
  • 追加HDD(推奨): Seagate IronWolf 4TB × 2台(RAID 1構成) ¥59,560
  • サーバー+HDD合計: 約¥159,440(実効容量4TB・冗長性あり)
  • 電気代: 月¥1,000〜2,000(24時間稼働、15〜30W想定)
  • 保守予備費: 年¥10,000〜15,000(SSD交換・ファン交換・故障対応のための積立)
  • 人件費換算レート: @¥5,000/h(兼務社員の片手間業務としての機会費用。本来業務が疎かになるリスクを含む)

参考比較: このサーバー構成(約¥159,440)は、同程度の性能帯を持つターンキーNAS「Orcinus」(本体¥220,000)に近い価格帯です。Orcinusはソフトウェア込み・サポート付きの完全ソリューションであるのに対し、本構成はOS・OSSの導入をすべて自分で行うセルフビルド方式です。「手間を外注するか、自分でやるか」の分岐点として、両者の価格差約¥60,000は一つの目安になるでしょう。


2.1 Nextcloud(ファイル共有・グループウェア)

初期費用

項目内訳金額(目安)
ソフトウェアCommunity Edition(AGPLv3, 無料)¥0
サーバー(一括購入)UGREEN NASync DXP4800 GT(¥99,880)+HDD 4TB×2(¥59,560)※初年度のみ¥159,440
ドメイン・SSLお名前.com + Let's Encrypt(無料)¥1,000〜2,000/年
導入設定(内部実施)サーバー組立・OSインストール・Nextcloud設定(8〜16時間)¥40,000〜80,000(@¥5,000/h)
導入設定(外部スポット依頼)フリーランスにサーバー構築を依頼した場合の相場¥80,000〜200,000(一括)
合計(初年度・内部)サーバー代(¥159,440)+設定工数+ドメイン(電気代・保守は別途)約 ¥200,000〜242,000
合計(初年度・外部依頼)外部に設定依頼した場合約 ¥240,000〜362,000

外部スポット依頼は、クラウドワークス・ランサーズ・知人のIT企業などに「UbuntuサーバーにNextcloudをインストールしてほしい」と発注する想定です。継続的な保守契約は含みません。

月間運用工数(片手間で実施)

作業内容頻度所要時間
アップデート適用(major/minor)月1〜2回30分〜1時間
バックアップ検証週1回15〜30分
監視(ログ確認・ストレージ監視)週1回15〜30分
セキュリティパッチ月0〜2回(緊急時は即日)15〜30分
ユーザー管理・問い合わせ対応随時週30分〜1時間
合計月間運用工数2〜5時間/月

担当者は経営層または一般社員が兼務。月数時間を本来業務の片手間で行うことを前提としています。専任者を置ける規模ではありません。

年間コスト試算(10ユーザー固定)

項目10ユーザー(初年度)10ユーザー(2年目以降/年)
サーバー償却(3年定額)¥17,000〜34,000¥17,000〜34,000
電気代¥12,000〜24,000¥12,000〜24,000
保守予備費¥10,000〜15,000¥10,000〜15,000
ドメイン・SSL¥1,000〜2,000¥1,000〜2,000
運用工数(@¥5,000/h, 片手間)¥120,000〜300,000¥120,000〜300,000
合計¥160,000〜375,000¥160,000〜375,000

参考: Google Workspace Business Standard(¥1,360/ユーザー/月)の場合、10ユーザーで ¥163,200/年。Nextcloudセルフホストの合計(¥160,000〜375,000/年)と比較すると、Google Workspaceの方が安いケースが多く、運用負荷もゼロです。


2.2 Mattermost(チャット/コラボレーションツール)

初期費用

項目内訳金額(目安)
ソフトウェアTeam Edition(MITライセンス, 無料)¥0
サーバー(一括購入)UGREEN NASync DXP4800 GT(¥99,880)+HDD 4TB×2(¥59,560)(Nextcloudと兼用可能 ※)¥159,440
ドメイン・SSL同上(兼用可)¥1,000〜2,000/年
導入設定(内部実施)Docker Compose展開、SMTP設定(4〜12時間)¥20,000〜60,000
導入設定(外部スポット依頼)フリーランス相場¥50,000〜150,000
合計(初年度・内部)サーバー代(¥159,440)+設定工数+ドメイン約 ¥180,000〜222,000

※ Nextcloudと同一サーバーに同居させることも可能ですが、リソース競合や障害時の影響範囲を考慮し、本試算では独立したサーバーを想定しています。同一サーバーに同居する場合、サーバー代は按分可能です。

月間運用工数

作業内容頻度所要時間
アップデート(月1回リリース)月1回30分〜1時間
バックアップ(DB + ファイル)週1回15分
監視・ログ確認週1回15分
セキュリティパッチ月0〜1回15〜30分
ユーザー管理・問い合わせ随時週15〜30分
合計月間運用工数2〜4時間/月

年間コスト試算(10ユーザー)

項目10ユーザー(初年度)10ユーザー(2年目以降/年)
サーバー償却(3年定額)¥17,000〜34,000¥17,000〜34,000
電気代¥12,000〜24,000¥12,000〜24,000
保守予備費¥10,000〜15,000¥10,000〜15,000
ドメイン・SSL¥1,000〜2,000¥1,000〜2,000
運用工数(@¥5,000/h, 片手間)¥120,000〜240,000¥120,000〜240,000
合計¥160,000〜315,000¥160,000〜315,000

参考: Slack Pro(月払い¥1,050/ユーザー/月(2026年7月時点))の場合、10ユーザーで 約 ¥126,000/年。Microsoft Teams Business Basic(¥530/ユーザー/月)なら ¥63,600/年。Mattermostセルフホストはこれらより割高であり、特にTeamsには価格で太刀打ちできません。


2.3 GitLab(Gitリポジトリ管理・CI/CD)

GitLabは「ソースコードを管理する」ツールです。ソフトウェア開発を行っていない事業者には不要です。本セクションは開発チームを持つSMB向けの参考データです。

初期費用

項目内訳金額(目安)
ソフトウェアCommunity Edition(MITライセンス, 無料)¥0
サーバー(一括購入)UGREEN NASync DXP4800 GT(¥99,880)+HDD 4TB×2(¥59,560)※RAM 8GBのため要検討¥159,440
ドメイン・SSL同上¥1,000〜2,000/年
導入設定(内部実施)Omnibusインストール・SSH鍵管理(8〜24時間)¥40,000〜120,000
導入設定(外部スポット依頼)フリーランス相場¥80,000〜250,000
合計(初年度・内部)サーバー代(¥159,440)+設定工数+ドメイン約 ¥200,000〜282,000

GitLabは他の2つより要求スペックが高く、特にCI/CDランナーを併用する場合はさらにリソースが必要です。目安として、メモリ8GBでは厳しい場合があるため16GBを推奨しています。本構成のUGREEN NASync DXP4800 GTは8GB DDR4(増設不可)のため、GitLab用途ではスワップが発生する可能性があります。大規模なCI/CD運用を想定する場合は、よりメモリの多いサーバーを検討してください。

月間運用工数

作業内容頻度所要時間
アップデート(月1回リリース)月1回1〜2時間
バックアップ(rakeタスク)週1回15〜30分
監視(Prometheus/Grafana確認)週1回15〜30分
CIランナー管理月1回30分〜1時間
セキュリティパッチ月0〜2回30分〜1時間
ストレージ管理(アーティファクト削除等)月1回15〜30分
合計月間運用工数3〜8時間/月

年間コスト試算(10ユーザー)

項目10ユーザー(初年度)10ユーザー(2年目以降/年)
サーバー償却(3年定額)¥24,000〜40,000¥24,000〜40,000
電気代(高スペック想定)¥15,000〜30,000¥15,000〜30,000
保守予備費¥15,000〜20,000¥15,000〜20,000
ドメイン・SSL¥1,000〜2,000¥1,000〜2,000
運用工数(@¥5,000/h, 片手間)¥180,000〜480,000¥180,000〜480,000
合計¥235,000〜572,000¥235,000〜572,000

参考: GitHub Team($4/ユーザー/月 ≒ ¥600/ユーザー/月)の場合、10ユーザーで ¥72,000/年。GitHub Enterprise Cloud($21/ユーザー/月)でも ¥252,000/年。自前運用のコストがいかに割高かがわかります。


2.4 統合コスト比較表(10ユーザー想定、初年度)

項目Nextcloud CEMattermost TEGitLab CE
初期費用(サーバー+設定)¥200,000〜242,000¥180,000〜222,000¥200,000〜282,000
電気代+保守(年間)¥22,000〜39,000¥22,000〜39,000¥30,000〜50,000
月間運用工数2〜5時間2〜4時間3〜8時間
年間運用コスト(合計)¥160,000〜375,000¥160,000〜315,000¥235,000〜572,000
3年TCO(サーバー購入含む・概算)¥530,000〜1,190,000¥510,000〜990,000¥780,000〜1,770,000

注意: この表は 各OSSを単体で導入 した場合の数値です。複数のOSSを同居させる場合、サーバー代は按分可能ですが、障害時のリスクは集中します。

サーバー代は UGREEN NASync DXP4800 GT(¥99,880)+ HDD 4TB×2(¥59,560)を基準とした概算であり、複数OSSで按分した場合の数値を記載しています。実際の導入構成に応じて変動します。

参考までに主要SaaSの3年コストを並べると:
- Google Workspace Business Standard(10ユーザー): 約 ¥490,000
- Slack Pro(10ユーザー): 約 ¥378,000
- GitHub Team(10ユーザー): 約 ¥220,000

いずれもセルフホストより安く、運用負荷はゼロです。


3. SaaS版との価格比較 — 身近なサービスと比べる

ここでは、SMBが実際に使っている具体的なSaaSサービスと、セルフホストOSSのコストを比較します。「セルフホストって実際どれくらい得なの?」という疑問に答えるセクションです。

3.1 ファイル共有(Nextcloud vs Google Workspace / Box)

サービス10ユーザー/年の料金運用負荷データ保存先
Google Workspace Business Standard¥1,360/ユーザー/月 → ¥163,200/年ゼロ(Google管理)Googleのサーバー(日本国内リージョン選択可)
Box Business約¥1,800/ユーザー/月 → 約¥216,000/年ゼロ(Box管理)Boxのサーバー
Nextcloud CE(セルフホスト)¥160,000〜375,000/年(運用含む)月2〜5時間自社サーバー(完全自社管理)
Nextcloud Enterprise(有償サポート)100席最小(¥71/ユーザー/年)→ 10席では購入不可のため非現実的低(サポート付き)自社サーバー

ポイント: Google Workspaceは10ユーザー¥163,200/年に対して、Nextcloudセルフホストは¥160,000〜375,000/年と、最安値でもほぼ同額、高めの見積もりだと倍以上 かかります。しかもGoogle Workspaceは運用不要、99.9%以上の稼働率保証あり。ファイル共有だけならセルフホストを選ぶ経済的合理性はほぼありません。

3.2 チャット(Mattermost vs Slack / Teams)

サービス10ユーザー/年の料金運用負荷備考
Slack Pro月払い¥1,050/ユーザー/月(2026年7月時点)≒ ¥126,000/年ゼロ(Slack管理)ゲスト含め無制限連携
Microsoft Teams Business Basic¥530/ユーザー/月 → ¥63,600/年ゼロ(Microsoft管理)M365 Business Basicに含む
Mattermost TE(セルフホスト)¥160,000〜315,000/年(運用含む)月2〜4時間完全自社管理・データ主権

ポイント: Teamsは10ユーザーで 年間¥63,600 と破格です。Slackでも¥126,000。Mattermostセルフホスト(¥160,000〜315,000/年)は SaaSより高い うえに運用負荷があります。社内チャット目的なら、MattermostをセルフホストするよりSlackかTeamsを契約した方が確実に安いです。

3.3 コード管理(GitLab vs GitHub)

サービス10ユーザー/年の料金運用負荷備考
GitHub Team$4/ユーザー/月 → ¥72,000/年ゼロ(GitHub管理)3,000分/月のActions含む
GitHub Enterprise Cloud$21/ユーザー/月 → ¥252,000/年ゼロ(GitHub管理)SAML SSO、監査ログ等
GitLab.com(SaaS無料)5ユーザーまで無料 → 10ユーザーなら要Premium要確認Premium $29/ユーザー/月は高額
GitLab CE(セルフホスト)¥235,000〜572,000/年(運用含む)月3〜8時間CEは機能制限あり(CI/CD一部不可)

ポイント: GitHub Teamは ¥72,000/年 と格安。一方GitLab CEセルフホストは¥235,000〜572,000/年。コード管理のためだけにセルフホストを選ぶ理由は、「ソースコードを絶対に外部に出せない」という制約がある場合以外には見当たりません

3.4 10ユーザー年間コスト早見表(セルフホスト vs SaaS)

用途推奨SaaSSaaS年間費用セルフホストOSS年間費用差額
ファイル共有Google Workspace Business Standard¥163,200Nextcloud CE: ¥160,000〜375,000SaaSが同等〜最大¥212,000安い
社内チャットSlack Pro / Teams Basic¥63,600〜126,000Mattermost TE: ¥160,000〜315,000SaaSが最大¥251,000安い
コード管理GitHub Team¥72,000GitLab CE: ¥235,000〜572,000SaaSが最大¥500,000安い

補足: この比較では人件費レートを @¥5,000/h としています。外部のスポット支援を利用する場合、実際のレートは @¥8,000〜15,000/h と高くなるため、セルフホストのコスト優位性はさらに縮小します。


4. 障害復旧とリスク評価(SMB向け簡易版)

セルフホスト最大のリスクは 「バックアップを取っていなかった」「復旧手順がわからない」 という事態です。以下の表は、各OSSで想定される典型的な障害シナリオをまとめたものです。

4.1 典型的な障害シナリオ

Nextcloud

シナリオ復旧時間(目安)データ損失リスクやるべき対策(非エンジニア向け)
サーバーが突然壊れた1〜3日(部品交換・再セットアップ)高(バックアップがないと全データ消失)日次自動バックアップ を設定。バックアップ先は外付けHDDか別のPC
アップデート後に動かなくなった1〜3時間(スナップショット復元)更新前にサーバー全体のスナップショット(イメージバックアップ)を取得
ストレージ(SSD)が満杯になった1〜2時間低(書き込み不可になるが既存データは保全)残量アラート設定。80%で通知するよう設定
誤ってファイルを削除した数分(ゴミ箱から復元)〜数時間(バックアップから復元)低〜中(ゴミ箱機能あり)Nextcloudのゴミ箱機能とバージョン管理を有効にしておく

Mattermost

シナリオ復旧時間(目安)データ損失リスクやるべき対策
データベース(DB)が壊れた1〜3時間中〜高(トーク履歴消失)日次DBバックアップ+WALアーカイブを設定
サーバーが落ちた1〜3時間(再起動で復旧)Docker Composeの自動再起動設定を入れておく
ファイル(画像添付等)が消えた1〜2時間ファイルストレージをバックアップ対象に含める

GitLab

シナリオ復旧時間(目安)データ損失リスクやるべき対策
DB破損3〜6時間高(IssueやMRの履歴消失。コードは各開発者のローカルに残る)毎日の自動バックアップ(rakeタスク)をcronで実行
ディスク容量枯渇1〜2時間低(ただしCI実行不可)アラート設定+定期的なアーティファクト削除
Gitリポジトリ破損1〜4時間中(各開発者ローカルにクローンが残存)別のサーバーに定期的にミラーリング

4.2 復旧戦略(簡易版)

可用性(24時間365日の安定稼働)を要求する場合は、予備サーバーの準備や複数台構成、あるいはSaaSへの移行を検討すべきです。ただし本資料が想定する10名・オンプレミス規模では、まずは 「日次バックアップ」 を確実に取ることを最優先とし、可用性追求は後回しで構いません。サービスが止まっても翌営業日中に復旧できれば十分、という割り切りが現実的です。

4.3 リスク評価サマリー

リスク要因影響度確率対策コスト推奨アクション
バックアップ未実施によるデータ損失致命的低(外付けHDD+自動スクリプト)最初に設定する。最優先タスク
アップデート失敗によるサービス停止低〜中低(更新前のコピー取得)更新前だけは必ずバックアップを取る癖をつける
セキュリティインシデント中(インターネット公開の場合)中〜高(WAF・専用FW)最初は社内LAN限定運用でスタートするのも手
ストレージ枯渇低(アラート設定)80%で通知するアラートを設定
人的ミス(誤設定・誤削除)中〜高低(管理者1名+予備知識)作業前に必ずバックアップ。作業手順をメモに残す

5. 総合考察:SMBがセルフホストを選ぶとき

5.1 コストの壁——SaaSとどちらが得か

セルフホストの導入コストはSaaSの半年〜1年分程度であり、10ユーザー規模ではSaaSの方がほぼすべてのケースで安い、というのが今回の調査結果です。

ただし以下の点は割り引いて考える必要があります:

  1. 人件費レートの現実: 本調査では @¥5,000/h で計算していますが、これは「本来業務の片手間」という前提のレートです。外部のスポット支援を頼む場合、実際のレートは @¥8,000〜15,000/h になるため、人件費の試算はさらに膨らみます。

  2. 「やってみたらできた」という学習効果: 初めてサーバーを触る経営者や社員がセルフホストに挑戦することで、社内にITリテラシーが醸成される——という定性的なメリットも無視できません。ただしこれはあくまで 「趣味と実益を兼ねる」 という割り切りが必要です。

  3. データ主権の価値: ファイルや会話ログを社外に出したくない、という場合、セルフホストは唯一の選択肢になります。この場合の「コスト」は、データ主権を得るための保険料と考えるべきです。

5.2 運用の壁——外部支援という選択肢

社内にエンジニアがいなくても、セルフホストを始める方法はあります。以下の表は、セルフホストに必要なスキルセットと、外部支援に頼った場合の対応を示します。

必要なスキルセット内部でやる場合の難易度外部依頼すれば?
Linuxサーバー管理(基本的なCLI操作)中(初心者には敷居が高い)導入時に設定してもらえば、以降は「電源ON/OFF」と「バックアップ確認」だけでも運用可能
Docker/Docker Compose導入時に設定。アップデートも定期依頼可
PostgreSQL管理中〜高バックアップ自動化を設定してもらえば、普段は意識しなくてOK
SSL/TLS証明書管理低〜中(Let's Encryptは自動化可能)初回設定のみ。自動更新設定でほぼ放置可能
ネットワーク(ルーターのポート開放・DNS)中(ルーター設定に抵抗がある人には難しい)導入時にルーター設定まで依頼
バックアップ戦略の設計と運用自動化設定を依頼。あとは月1回「リストアできるか」の確認だけ
セキュリティパッチ管理保守契約(月1〜2万円程度)に含めてしまう

現実的な選択肢:
- 導入のみ外部依頼: ランサーズ・クラウドワークスでサーバー構築を発注(相場¥80,000〜200,000)。以降のアップデートは自分でやるか、その都度依頼。
- 継続的な保守契約: 地元のIT企業や知人に月1〜2万円程度でアップデート・監視を依頼。
- ハイブリッド: 普段は自分で運用し、障害時だけ有償サポートを受ける(スポット対応)。

5.3 障害復旧の壁——データを失わないために

セルフホストで最も恐れるべきは 「バックアップを取っていなかった」 という事態です。以下の3点だけは必ず守ってください:

  1. バックアップは自動化する — 「手動でやろう」は必ず忘れます。cronやスクリプトで自動実行する仕組みを最初に作りましょう。
  2. バックアップが正しく取れているか、月に1度は確認する — バックアップファイルが壊れていた、というケースは珍しくありません。実際にリストアできるか試す「復旧訓練」を年に1回は実施してください。
  3. バックアップ先はサーバーと別の媒体に取る — 同じサーバーの別パーティションに取っていては、サーバー故障時に共倒れです。外付けSSD/HDD、NAS、あるいは別のPCに保存しましょう。

5.4 判断フローチャート——ウチの会社にセルフホストは必要?

以下のフローチャートは、社内にエンジニアが不在 であることを前提にしています。セルフホストを検討する場合の現実的な選択肢を示します。

Q: データ主権・コンプライアンス上の理由で、社外のSaaSが使えない制約はあるか?
│ (例: 顧客データを外部に出せない契約、社内規定、業界規制など)
├── No → SaaS利用を強く推奨(コスト・運用負荷・リスク全てで有利)
│         以下の候補から選ぶ:
│         • ファイル共有 → Google Workspace / Box
│         • 社内チャット → Slack / Microsoft Teams
│         • コード管理  → GitHub / Bitbucket
│
└── Yes → Q: 導入設定を手伝ってくれる人(社内外問わず)に心当たりはあるか?
          │
          ├── No → 【外部スポット支援で導入のみ依頼】
          │         1. ランサーズ / クラウドワークス で「Ubuntuサーバーに
          │            Nextcloudをインストールしてください」と発注(¥80,000〜200,000)
          │         2. バックアップ自動化・アラート設定まで依頼内容に含める
          │         3. 月1回のアップデートもついでに依頼するか、都度発注
          │         4. 障害時は再度スポット対応 or 知人にSOSを出せる関係を作る
          │
          └── Yes → Q: 月に数時間、運用の時間を確保できるか?
                    │ (アップデート・バックアップ確認・ログチェックで月2〜5時間)
                    │
                    ├── No → 【外部に継続保守を依頼】
                    │         月1〜2万円程度で保守契約(更新・監視・障害対応)
                    │         地元のIT企業やフリーランスに月額契約を打診
                    │         自分は「障害発生の連絡先を知っている」だけでOK
                    │
                    └── Yes → 【セルフホストに挑戦】
                              • 導入は手伝ってくれる人に設定してもらう
                              • 自分は「バックアップが取れているか」の確認だけ担当
                              • 年に1回、復旧訓練(実際にリストアしてみる)を実施
                              • どうしても無理なら外部支援に切り替える勇気も持つ

6. 参考リンク・出典

公式価格ページ(SaaS比較用)

OSS導入リファレンス

コミュニティ・Q&A

サーバーハードウェア参考


付録:調査メモ

数値の根拠と限界

本レポートの数値は、以下のソースを総合して算出したものです:

  • OSS各社の公式ドキュメント(インストール手順・システム要件・アップデート所要時間)
  • 各コミュニティフォーラムでの管理者の運用報告
  • 実際にセルフホストを運用している知人・事例からのヒアリング
  • 筆者(一ノ瀬律子)自身のセルフホスト運用経験に基づく推定値

正確な工数は組織のスキルセットや既存の運用基盤に大きく依存するため、本レポートの数値はあくまで目安です。特に以下の点にご注意ください:

  • サーバー代: 本レポートではUGREEN NASync DXP4800 GT(¥99,880)+Seagate IronWolf 4TB×2(¥59,560)の構成を前提としています。より安価な中古ミニPCであれば¥30,000〜50,000から構築可能ですが、ストレージの冗長性は別途考慮が必要です。逆に、サーバーグレードのハードウェア(例: Dell PowerEdge タワーサーバー)では¥200,000〜500,000になります。
  • 電気代: 15〜30Wの小型PCを24時間稼働と仮定。モニターや周辺機器は含みません。東京電力の従量電灯B(約¥31/kWh)で計算しています。
  • 人件費: @¥5,000/h は兼務社員の片手間作業としての機会費用です。外部依頼や専任者を雇う場合は @¥8,000〜15,000/h になるため、人件費の試算は2〜3倍に跳ね上がります。

「データ主権」の実際

セルフホストを選ぶ最大の理由である「データ主権」ですが、これにも程度があります:

  • 「社外に出したくない」レベル: SaaSにデータを預けることに心理的抵抗がある。→ セルフホストで対応可能。
  • 「法律・契約で外部送信禁止」レベル: 契約書や社内規程でクラウド利用が禁止されている。→ セルフホストしか選択肢がない。
  • 「監査・証跡が必須」レベル: 誰がいつどのデータにアクセスしたか、完全なログが必要。→ Nextcloud EnterpriseやGitLab Premiumの監査機能が必要になる場合があり、無料のCommunity Editionでは不足する可能性があります。

自社の「データ主権」要件がどのレベルなのかを明確にしてから、セルフホストかSaaSかを判断することをおすすめします。

免責

本レポートの内容は特定の製品やサービスの導入を推奨するものではありません。各社の事情に応じて適切な選択を行ってください。記載された価格・数値は2026年7月時点の調査に基づき、予告なく変更される場合があります。


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